カスハラなら調剤を断っていい?厚労省が「調剤拒否できるケース」を明確化

カスハラなら調剤を断っていい?厚労省が「調剤拒否できるケース」を明確化

薬剤師法第21条は、「調剤の求めがあった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」と定めています。いわゆる調剤応需義務です。

これまで「正当な理由」とされてきたのは、薬剤師不在・災害・疑義照会不能など、物理的・薬学的に調剤できないケースが中心でした。

しかし2026年7月の厚労省通知は考え方を整理し直し、

カスタマーハラスメント・悪意ある未払い・開局時間外などでも調剤拒否が正当化され得ることを明示しました。

目次

「カスハラ=即、調剤拒否」ではない

今回のポイントは、カスハラがあれば何でも断ってよいという話ではないことです。拒否の可否は、患者の緊急性・時間帯・行為の程度・それまでの経緯などを含めた総合判断とされています。

特にカスハラでは、「社会通念上許容される範囲を超えた言動」であることに加え、それによって調剤の基礎となる信頼関係が失われているかが問われます。一度怒鳴られただけで機械的に「今後は調剤しません」とはできません。警告書を出す、複数名で説得するといった対応をしても迷惑行為が続くケースが、信頼関係が失われた例として挙げられています。

調剤拒否が認められ得るケース

カスハラのまとめ画像

厚労省が示した代表例です。いずれも自動的に拒否できるわけではなく、個々の事情を踏まえた総合判断が前提となります。

ケース考え方
暴力・威嚇暴力、物を投げる、机を叩く、大声での恫喝、脅迫など
暴言・人格否定侮辱・人格否定的な発言を繰り返す
過度な謝罪要求土下座の強要など
長時間拘束数時間の居座り、執拗な電話など
不当なクレーム調剤と無関係な要求を繰り返し、説明後も揚げ足取りを続ける
犯罪に当たる行為暴行・脅迫など刑法上の犯罪に該当し得る行為
悪意ある未払い未払いを繰り返し、今後も支払う意思がないと判断できる場合
開局時間外緊急性がなく、夜間・休日対応義務の対象外となる薬局
疑義照会不能疑義があるが処方医と連絡が取れず安全性を確認できない
流通管理薬登録制医薬品で必要な登録要件を満たさない
重複投薬等疑義照会後も客観的・薬学的に問題が残る場合
物理的に調剤不能災害、事故、薬剤師不在など

今回大きく変わったのは、「患者との信頼関係」と「安全な薬局業務」が判断材料として明確に位置付けられた点です。

患者の執拗な言動で薬剤師の集中が削がれ調剤過誤を誘発するおそれ、あるいは薬局内で騒ぐことで他の患者のプライバシー・安全・静穏な環境を害する場合も、
考慮要素とされました。

「スタッフが我慢すればいい」ではなく他の患者を含めて安全に業務を継続できるか、という視点で判断できるようになったわけです。

「悪意ある未払い」は断れる場合がある

過去の未払いが継続し今後も未払いとなる可能性が極めて高い場合や、

支払い能力確認のため被保険者情報の提示を求めても拒否し支払う意思が認められない場合は、拒否の正当な理由になり得ます。

ただし「今日お金を忘れた」だけでは同じ扱いにできず

・生活困窮
・一時的な所持金不足

も考慮が必要です。

また、薬を渡さないことで生命・身体に重大な影響が及ぶ緊急性が高い場合は、
未払いがあっても適切な対応が求められます。

要は「未払い=拒否」ではなく「悪意ある継続的な未払い」がポイントです。

在庫がないだけでは断れない

従来どおり、在庫がないというだけでは拒否理由になりません

すぐ用意できず早急な投薬が必要なら、速やかに調剤できる薬局を責任をもって紹介することが求められます。
「うちにはないので他を探してください」で終わらせるのは避けるべきです。

開局時間外は?

地域連携薬局など休日・夜間の応需体制を求められる薬局を除き、開局時間外かつ緊急性のない処方箋であれば、翌営業日の来局案内が認められます。

その場合も、必要に応じて休日夜間対応薬局や当番薬局を紹介することが望ましいとされています。

「調剤拒否」と「薬機法上、薬を渡せない」は別

薬剤師法上は調剤を行ったとしても、薬機法上、安全な薬物治療を確保できなければ薬を交付できない場合があります。

年齢・アレルギー・併用薬などの情報を一切教えない、服薬指導を完全に拒否する、重複投薬が疑われるのに確認ができない——

といったケースです。

これは「薬局都合の調剤拒否」ではなく、安全性を確認できないため法律上渡せないという整理になります。この区別は押さえておきたいところです。

前は問診拒否では拒否できなかったけれど、
個人的にはこれが一番大きな変化かもしれません。

正当なクレームは拒否理由にならない

反対に、「説明が分かりにくい」「待ち時間が長い」「今回の対応を説明してほしい」など、
調剤内容や接遇について合理的な指摘・改善を求めることはカスハラではありません。

要求内容が正当で、手段・態様も社会通念上相当な範囲であれば、拒否理由にはなりません。「苦情を言った=カスハラ」と混同しないことが重要です。

実務でどうする

個々の薬剤師がその場の感情で「もう薬を出しません」と判断するのではなく、薬局として判断基準を持っておくことが必要です。

そのうえで鍵になるのが記録です。

暴言・威嚇の内容、日時、対応スタッフ、警告内容、行為の反復回数、他患者・調剤業務への影響を客観的に残しておけば、
「信頼関係が失われた」と判断した根拠を説明しやすくなります。

なお2026年10月1日からは事業主へのカスタマーハラスメント防止措置も義務化されます。

スタッフ個人に我慢させるのではなく、薬局・会社として対応方針を整備しておくことがより重要になります。

ひより

記録って大事なんやな…

Yuki

調剤に限らず、裁判で日記などの記録が参考にされることもあるからね。
自分の身を護るためにも、しっかりと状況を書き留めておこう。
ただし、虚偽の内容はダメだからね。

まとめ

「調剤応需義務があるから、どんな患者でも絶対に断れない」という考え方は、今回の通知で明確に修正されました。

ただし断れるのは、行為の程度・反復性・緊急性・経緯を踏まえて信頼関係が失われ安全な調剤が困難と総合判断できる場合であり、

「カスハラだから即拒否」
「未払いだから即拒否」

という単純な話ではありません。判断の分かれ目を理解し、記録と薬局としての方針で備えておくことが実務のポイントです。

参考文献

  • 厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について」(医薬発0708第1号、令和8年7月8日)
  • 薬剤師法 第21条「調剤の求めに応ずる義務」
  • 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」―カスタマーハラスメント防止措置の義務化(令和8年10月1日施行)
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この記事を書いた人

Yukiのアバター Yuki 管理薬剤師

調剤薬局で15年、管理薬剤師として13年勤務。
現在は学校薬剤師として小学校・中学校にも関わりながら、薬剤師向けサイト「PharmaNote」を運営しています。

薬剤師としての現場経験と、テレビ・アニメ作編曲家としての表現の経験を活かし、やさしく親しみやすい情報発信を心がけています。

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