手術前にメトホルミンを休薬するのはなぜ?

糖尿病患者さんから、

「手術があるので、メトホルミンを飲まないように言われました」

と相談されることがあります。

手術前は絶食になることも多いため、

「低血糖を防ぐために休薬するのかな?」

と思うかもしれません。

しかし、メトホルミンを周術期に休薬する主な理由は、低血糖ではなく乳酸アシドーシスへの懸念です。

目次

メトホルミンは低血糖を起こしにくい

メトホルミンは、主に肝臓での糖新生を抑制し、インスリンの効きを改善することで血糖値を下げます。

SU薬のようにインスリン分泌を直接促進する薬ではないため、単剤では低血糖を起こしにくい薬です。

そのため、

「絶食するから低血糖になるので中止する」

という説明だけでは不十分です。

周術期は乳酸アシドーシスのリスク因子が重なることがある

メトホルミンで注意すべき重篤な副作用の一つが、乳酸アシドーシスです。

発現頻度は非常に低いものの、腎機能障害、脱水、循環不全、低酸素状態などがある場合にはリスクが高まります。

メトホルミンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると体内に蓄積しやすくなります。

手術の前後では、

  • 絶食や脱水
  • 出血
  • 血圧低下
  • 腎血流低下
  • 低酸素状態

などが生じる可能性があります。

つまり、手術そのものが問題なのではなく、周術期にメトホルミンが蓄積しやすい状況が生じる可能性を考慮して休薬するという考え方です。

日本では手術前後の休薬が基本

日本のメトグルコの電子添文では、「手術前後の患者」は禁忌に位置づけられています。

その理由として、乳酸アシドーシスを起こしやすいことに加え、インスリン注射による血糖管理が望まれることが記載されています。

したがって、国内では手術前後の休薬が基本です。

ただし、電子添文には、「手術の何日前から中止するか」「術後いつ再開するか」について、一律の期間は示されていません。

具体的な休薬・再開時期は、手術の規模、絶食期間、腎機能、全身状態などを踏まえて、手術を行う医療機関が判断します。

なお、海外ではガイドラインによって対応が異なります。
ADAの2026年版Standards of Careでは、メトホルミンを含む経口血糖降下薬を手術・処置当日に休薬する方針が示されています。一方、2024年のACC/AHA非心臓手術周術期ガイドラインでは、糖尿病または耐糖能異常の患者で、周術期のメトホルミン継続も合理的とされています。

ひより

海外とは少しちがうんやな

Yuki

いつか日本も合わせる日がくるかもしれないね

手術後の再開は?

再開時には、食事や水分摂取が再開できていることに加え、脱水や腎機能低下がないかを確認することが重要です。

特に術後に腎機能が悪化している場合には、メトホルミンをすぐに再開できないことがあります。

休薬期間や再開時期は、患者さん自身で判断せず、手術を行う医療機関からの指示に従う必要があります。

患者さんにはどう説明する?

調剤薬局では、基本的には病院でお話を受けてくる患者さんがほとんどでしょうが、もし患者さんから聞かれた場合には、

「血糖が下がりすぎるからというより、手術の前後に脱水したり腎臓の働きが一時的に低下すると、メトホルミンが体にたまりやすくなるためです。まれですが、乳酸アシドーシスという副作用を防ぐ目的があります」

程度に説明すると分かりやすいと思われます。

まとめ

手術前にメトホルミンを休薬する主な理由は、低血糖を防ぐためではありません。

周術期には脱水や腎機能低下、循環不全などが起こる可能性があり、それによってメトホルミンが蓄積し、乳酸アシドーシスのリスクが高まることを避けるのが背景にあります。

ただし現在は、メトホルミンを周術期に必ず休薬するかどうかについて、ガイドラインによって考え方が異なります。

薬局では、

「なぜ休薬するのか」を理解しつつ、実際の休薬・再開時期は手術を行う医療機関の指示を確認する

という対応が重要です。

参考文献

1.住友ファーマ.メトグルコ錠250mg/500mg 電子添文.2023年11月改訂(第5版).

2.American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 16. Diabetes Care in the Hospital: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S339–S355.

3.Thompson A, Fleischmann KE, Smilowitz NR, et al. 2024 AHA/ACC/ACS/ASNC/HRS/SCA/SCCT/SCMR/SVM Guideline for Perioperative Cardiovascular Management for Noncardiac Surgery. Circulation. 2024;150:e351–e442.
糖尿病または耐糖能異常の患者で、周術期のメトホルミン継続を合理的とする推奨について(推奨クラス2a)。

4.UK Clinical Pharmacy Association. Metformin. UKCPA Handbook of Perioperative Medicines.
術後の腎機能確認、食事・水分摂取の回復、再開時の判断について。

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この記事を書いた人

Yukiのアバター Yuki 管理薬剤師

調剤薬局で15年、管理薬剤師として13年勤務。
現在は学校薬剤師として小学校・中学校にも関わりながら、薬剤師向けサイト「PharmaNote」を運営しています。

薬剤師としての現場経験と、テレビ・アニメ作編曲家としての表現の経験を活かし、やさしく親しみやすい情報発信を心がけています。

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