「ヘパリン類似物質で水分を保ち、ワセリンでふたをする。混ぜれば、もっと保湿できるのでは?」
しかし、ヒルドイドソフト軟膏をプロペトで希釈した研究では、同じ量を塗った場合、混合品の保湿効果はヒルドイド単独より低下しました。
「どちらも保湿剤だから、混ぜると保湿力が上がる」とは限りません。研究の結果と、薬局で混合処方を扱う際のポイントを整理します。
保湿の仕組みが違っても、混ぜれば効果が上がるとは限らない
ヘパリン類似物質含有製剤は、角層に水分を与えて保持する働きがあります。一方、ワセリンは皮膚表面を油性の膜で覆い、水分の蒸散を抑えます。
| 製剤 | 保湿の主な特徴 | 基剤の種類 |
|---|---|---|
| ヒルドイドソフト軟膏0.3% | 角層の水分を増やし、保持する | 油中水型(W/O型)の乳剤性基剤 |
| プロペト | 皮膚を覆い、水分の蒸散を抑える | 油脂性基剤 |
ヒルドイドソフト軟膏は、油性成分の中に水性成分が分散した製剤です。そこへワセリンを加えると、ヘパリン類似物質の濃度が下がるだけでなく、基剤全体の組成も変わります。
つまり、作用機序の違いだけで、混合後の保湿効果を予測することはできません。
ヒルドイドとプロペトの混合を比較した研究
眞部らは、健康成人14名の前腕に人工的な乾燥皮膚を作り、次の4種類を比較しました。
| 比較した製剤 | ヒルドイド:プロペト | ヘパリン類似物質の濃度※ |
|---|---|---|
| ヒルドイド単独 | — | 0.3% |
| 2倍希釈 | 1:1 | 0.15% |
| 4倍希釈 | 1:3 | 0.075% |
| プロペト単独 | — | 含まない |
※混合後の濃度は質量比から計算した値。
各製剤は、1回2 mg/cm²を1日2回、14日間塗布しました。
(評価には、角層水分量を反映する皮膚電気伝導度を用い、無塗布部位の自然回復分を差し引いて比較しています。)
混合品では保湿効果が有意に低下
14日後の電気伝導度増加量は、次の通りでした。¹⁾
| 製剤 | 電気伝導度の増加量(平均±標準偏差) |
|---|---|
| ヒルドイド単独 | 66.3±30.9 μS |
| プロペトで2倍希釈 | 30.5±18.1 μS |
| プロペトで4倍希釈 | 12.1±12.4 μS |
2倍・4倍希釈の両群は、1・2・3・7・14日後のすべての測定日で、ヒルドイド単独より有意に低い値でした(p<0.05)。
また、4倍希釈とプロペト単独の間には、すべての測定日で有意差がありませんでした。ただし、これは「両者の効果が同等と証明された」という意味ではありません。2倍希釈と4倍希釈の差も、有意ではありませんでした。
※有意差がないことは、効果が同等と証明されたことを意味しません。また、2倍希釈と4倍希釈の差も有意ではありませんでした。
少なくとも今回の条件では、プロペトを混ぜてもヒルドイド単独を上回る保湿効果は得られず、むしろ低下したという結果です。
ひより油分増して効果が出るんかと思ったわ…。



イメージだけでは確かにそうだよね。でも実際は保湿効果が低下してしまうんだ。感覚だけの判断はしないようにしようね。
量を増やすことと、保湿力を高めることは別
ワセリンを加えれば、製剤の総量は増えます。ただし、同じ量を塗る場合、皮膚に届くヘパリン類似物質の量は減ります。
例えば、ヒルドイドとプロペトを1:1で混ぜると、ヘパリン類似物質の濃度は0.3%から0.15%になります。同じ面積に同じ量を塗っても、有効成分の量は半分です。
この混合は、かさ増しにはなりますが、今回の研究では保湿力を高める方法とはいえません。
また、保湿効果の低下が有効成分量の減少だけによるものか、基剤の変化も影響したのかは、この試験では切り分けられていません。
薬局では、混合の目的と使用状況を確認する
「水分を保つ薬と、蒸散を防ぐ薬を混ぜれば、もっと保湿できる」という説明は、今回の結果では裏づけられていません。
混合処方を扱う際は、次の点を確認したいところです。
- 混合の目的: 保湿効果の増強、希釈、使用感の調整など、何を目的としているか。
- 混合後の安定性: 製品・混合比・保存条件に合う配合変化データがあるか。³⁾
- 実際の使用状況: 乾燥が続いている場合、塗布量や回数が十分か。
今回の研究は保湿効果を評価したもので、混合品の長期保存中の安定性や費用対効果を検証したものではありません。
なお、対象は健康成人の人工乾燥皮膚です。他の剤形・後発品や、別々に塗る併用・重ね塗りまで、同じ結果になると結論づけることはできません。
保湿剤同士でも、混ぜれば効果が高まるとは限らない。 混合の目的を確認し、使用後の皮膚の状態まで見ていくことが大切です。
参考文献
- 眞部遥香,野澤茜,松元美香,大谷道輝.ヘパリン類似物質製剤の希釈に関する保湿効果の検討.薬学雑誌.2017;137(6):763–766.doi:10.1248/yakushi.16-00191.
- マルホ株式会社.保湿剤とは.
- マルホ株式会社.ヒルドイド:配合変化について.










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