ACE阻害薬の違い・使い分け|なぜARBではない?

ACE阻害薬の違い・使い分け|なぜARBではない?代表薬と処方意図を整理

高血圧や心不全の処方で見かけるACE阻害薬。ARBより処方頻度は少ないものの、
エナラプリル、リシノプリル、イミダプリルなど複数の薬があり、処方を見たときに迷うことがあります。

ACE阻害薬は基本的な作用機序や副作用は共通していますが、国内適応・対象年齢・排泄経路に違いがあります。この記事では、処方監査で確認したいポイントを現場向けに整理します。

※本記事は2026年7月時点の添付文書・ガイドラインをもとに作成しています。

目次

代表的なACE阻害薬はどう使い分ける?

ACE阻害薬同士の違いは、降圧力の優劣よりも、国内適応や小児適応、排泄経路から考えると分かりやすくなります。

薬剤選択を考える主な場面特徴
エナラプリル高血圧、慢性心不全心不全での使用実績が豊富。生後1か月以上の小児高血圧にも適応
リシノプリル高血圧、慢性心不全活性体として作用。主に腎排泄。6歳以上の小児高血圧にも適応
イミダプリル高血圧、腎実質性高血圧、1型糖尿病性腎症1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症の国内適応が特徴
ペリンドプリル高血圧国内適応は高血圧症。1日1回で使用
テモカプリル高血圧、腎実質性高血圧胆汁・腎排泄型で、腎排泄だけに依存しない

エナラプリル・リシノプリル

高血圧と慢性心不全に適応があり、心不全処方で見かけやすい薬です。

エナラプリルはプロドラッグで、リシノプリルは体内で活性化を必要としません。
ただし実際の選択は、治療歴・腎機能・処方医の使用経験・継続性などを含めて判断されます。

・心不全を目的とした処方か
・利尿薬、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬が併用されているか

を確認しましょう。

イミダプリル

1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症の国内適応があることです。

「糖尿病患者にはイミダプリル」という意味ではなく、適応はあくまで1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症であり、2型にそのまま当てはめることはできません。

検査値があれば

腎臓の検査値(eGFR、Crr等)

を確認しましょう

ペリンドプリル

適応は高血圧症のみです。

エナラプリルやリシノプリルのような慢性心不全、イミダプリルのような糖尿病性腎症の国内適応はありません。

テモカプリル

高血圧症と腎実質性高血圧症に適応があります。

テモカプリルは胆汁・腎排泄型ですが、腎機能低下時に無条件で安全という意味ではありません。
腎機能、K値、血圧、脱水の有無など、ACE阻害薬に共通する確認は必要です。

ひより

薬ごとに全く違うというより、まず適応を見ると分かりやすいんやな。

そうだね!心不全ならエナラプリルやリシノプリル、
1型糖尿病性腎症ならイミダプリルというように、まず処方目的から考えると整理しやすいよ!

ACE阻害薬はどのように効く?

ACE阻害薬は、アンジオテンシンⅠ→Ⅱへの変換酵素(ACE)を阻害し、
血管収縮・アルドステロン分泌・Na/水分貯留を抑え、糸球体内圧を下げます。
JSH2025でも主要降圧薬の一つに位置づけられています。

その結果、

  • 血管収縮を抑える
  • アルドステロン分泌を抑える
  • Na・水分の貯留を抑える
  • 心臓の前負荷・後負荷を軽減する
  • 糸球体内圧を下げる

といった作用が得られます。

なぜACE阻害薬では空咳が起こる?

ACEは炎症を引き起こす、ブラジキニンを分解する酵素でもあるため、ACE阻害薬ではブラジキニンが蓄積し、
乾いた咳や血管性浮腫が起こることがあります。

ARBはACEを直接阻害しないため、空咳が起こりにくいのが大きな違いです。

なお、ACE阻害薬による咳は投与直後に限らず、数週間〜数か月後に目立つこともあります。
原因のはっきりしない乾性咳嗽が続く場合は、

  • 開始時期に出現したか
  • 痰の有無
  • 感染症や喘息の有無
  • 心不全による咳
  • 夜間や臥位で悪化の有無

を確認します。

咳が出やすいのに、なぜACE阻害薬を使う?

高血圧のみの治療では、忍容性の面からARBが選ばれることも少なくありません。

一方でACE阻害薬には、心不全を中心に長年蓄積された臨床実績があります。すでにACE阻害薬で安定し、
咳や血管性浮腫がない患者では、あえてARBへ変更する必要があるとは限りません。

現場では、次のような処方背景が考えられます。

  • 慢性心不全を意識している
  • 薬剤固有の適応がある
  • 以前から問題なく継続している

慢性心不全での注意点とARNIへの切り替え

エナラプリルとリシノプリルには慢性心不全の適応があります。
ただし現在のHFrEF治療はACE阻害薬だけで考えるものではなく、2025年改訂版心不全診療ガイドラインでは、ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬などを組み合わせます。

心不全患者にACE阻害薬が処方されている場合は、

・安定しているか
・ARNIを使えない理由があるか
・血圧が低くないか
・腎機能とK値
・併用薬(β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬)
・利尿薬による脱水

などを確認します。

ARNIへの切り替えは36時間空ける

ACE阻害薬とサクビトリル・バルサルタン(エンレスト)を近接して使用すると、
ブラジキニンの分解が強く抑えられ、血管性浮腫のリスクが高まります。

どちらの方向の変更でも、少なくとも36時間空ける必要があります。

ひより

ARBからエンレストへ変更するときと同じ感覚じゃ駄目ってことなんやな。

忘れがちだけれど、36時間の休薬が必要だよ。
併用は禁忌に位置するから気を付けてね。
切替処方では、最後に服用した時間まで確認したいところだね。

モニタリング項目(開始・増量後/CKD)

ACE阻害薬やARBは、アルブミン尿を伴うCKDで重要な薬です。KDIGO 2024では、糖尿病の有無にかかわらず、中等度〜高度のアルブミン尿を伴うCKD患者に推奨されています。ただし腎機能が低下している患者すべてに使うわけではなく、ACE阻害薬とARBの併用は高K血症・急性腎障害・低血圧のリスクを高めるため原則避けます。

開始・増量後は、次の項目を確認します。

  • 検査値:血圧、血清Cr・eGFR、血清K値
  • 症状:めまい、ふらつき、脱水(下痢・嘔吐・食事摂取不良)
  • 併用:NSAIDs、MRA・K保持性利尿薬・K製剤

CKD患者では、開始・増量後2〜4週間以内に血圧・Cr・K値を確認するのが推奨されます。4週間以内にCrが30%を超えて上昇した場合は、脱水・NSAIDs・腎動脈狭窄などの原因を確認します。軽度のCr上昇だけで直ちに中止せず、変化量と患者背景から判断することが重要です。

特に注意したい禁忌

血管性浮腫の既往

ACE阻害薬によるものだけでなく、遺伝性、後天性、特発性などの血管性浮腫の既往がある患者には使用できません。
口唇、舌、顔、喉の腫れや呼吸困難がある場合は、緊急対応が必要です。

妊娠中・妊娠している可能性がある場合

妊婦または妊娠している可能性のある女性には禁忌です。
妊娠可能年齢の患者では、妊娠希望や妊娠の可能性を確認します。

サクビトリル・バルサルタン使用中または中止後36時間以内

血管性浮腫のリスクがあるため併用できません。

特定の血液浄化療法

AN69膜を使用した血液透析や、一部のアフェレーシスでは、ACE阻害薬との併用によりショックを起こす可能性があります。
透析やLDLアフェレーシスを受ける患者では、ACE阻害薬の服用情報が共有されているか確認します。

服薬指導で伝えたいこと

ACE阻害薬を服用する患者には、次の症状があれば相談するよう説明します。

  • 乾いた咳が長く続く
  • 顔、唇、舌、喉が腫れる
  • 強いめまいやふらつき
  • 尿量が急に減った
  • 下痢や嘔吐で水分が取れない
  • 妊娠した、または妊娠を希望している
  • 市販の鎮痛薬を頻繁に使用している

体調不良時に一律で自己中止するよう伝えるのではなく、連絡方法をあらかじめ確認しておくことが大切です。

ACE阻害薬は誤嚥性肺炎を予防する?

ACE阻害薬はブラジキニンやサブスタンスPの分解を抑えるため、咳反射・嚥下反射を改善し、誤嚥性肺炎を減らす可能性が報告されています。
それを意図とした処方があることも事実です。

ただし、研究結果は一貫しておらず、誤嚥性肺炎予防の国内適応もありません。
誤嚥予防だけで使用するのではなく、患者の脳血管や血圧の状態も確認することが大事でしょう。

明らかな乾性咳嗽が続いている場合は、予防効果を期待して継続するのではなく、副作用として処方の見直しを検討します。

まとめ

ACE阻害薬は、すべてACEを阻害する薬ですが、国内適応や薬物動態には違いがあります。

  • エナラプリル:高血圧・慢性心不全。生後1か月以上の小児高血圧にも使用可能
  • リシノプリル:高血圧・慢性心不全。6歳以上の小児高血圧にも使用可能
  • イミダプリル:1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症の適応が特徴
  • ペリンドプリル:国内適応は高血圧症
  • テモカプリル:高血圧・腎実質性高血圧。胆汁・腎排泄型

ACE阻害薬を見たときは、薬剤名だけでなく、

「高血圧・心不全・糖尿病性腎症のどれが目的か」
「空咳や血管性浮腫がないか」
「腎機能とK値に問題がないか」
「ARNIへの切り替えではないか」

を確認すると、処方意図と注意点を整理しやすくなります。

参考資料

  • 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」
  • 日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」
  • KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of CKD
  • PMDA:エナラプリルマレイン酸塩添付文書
  • PMDA:リシノプリル添付文書
  • PMDA:イミダプリル塩酸塩添付文書
  • PMDA:サクビトリル・バルサルタン添付文書
  • PMDA医療安全情報「ACE阻害薬服用患者の血液浄化時の注意について」
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この記事を書いた人

Yukiのアバター Yuki 管理薬剤師

調剤薬局で15年、管理薬剤師として13年勤務。
現在は学校薬剤師として小学校・中学校にも関わりながら、薬剤師向けサイト「PharmaNote」を運営しています。

薬剤師としての現場経験と、テレビ・アニメ作編曲家としての表現の経験を活かし、やさしく親しみやすい情報発信を心がけています。

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