アセトアミノフェンのHAGMAって?添付文書に追記された注意点

アセトアミノフェンのHAGMAって?添付文書に追記された注意点

カロナールなどでおなじみのアセトアミノフェン。

副作用といえば肝障害が有名ですが、2026年8月25日、PMDAの「使用上の注意」改訂指示で、あまり聞き慣れない注意点が追加されました。

それが、

ピログルタミン酸(5-オキソプロリン)の蓄積による「アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシス(HAGMA)」

です。

ポイントは2つ。肝障害(NAPQI由来)とはまったく別の機序であること、
そして過量投与でなくても起こりうることです。順番に見ていきましょう。

目次

そもそもHAGMAって?

HAGMA(High Anion Gap Metabolic Acidosis)は、ひとことで言うと アニオンギャップが開いたタイプの代謝性アシドーシス

…とはいえ、まずは言葉を分解してみます。

代謝性アシドーシス
体内で酸が増えたり、HCO₃⁻(重炭酸イオン)が失われたりして、血液が酸性側に傾いた状態のことですね。

アニオンギャップ(AG)
これは血液中にある陽イオンと陰イオンの量の差を計算した、代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾く状態)の原因を見分けるための重要な指標

アニオンギャップは次の式で求めます。

AG = Na⁺ −(Cl⁻ + HCO₃⁻)

血液は本来プラスとマイナスが釣り合っているのですが、普段の検査ではすべてのイオンを測っているわけではありません。
この式は、いわば 「検査で測っていない陰イオン(=酸)がどれくらい隠れているか」を推測する目安 です。

正常値はだいたい12±2mEq/Lくらい。

ここで乳酸やケトン体のような酸が増えると、それを打ち消すためにHCO₃⁻が使われて減っていきます。
Na⁺やCl⁻はほぼそのままなので、式の差だけが広がる——これが 「AGが開大する」 ということです。

まとめると、HAGMAは 「普段の検査では見えていない酸がたまったタイプの代謝性アシドーシス」。乳酸アシドーシスや糖尿病性ケトアシドーシスが代表格で、今回の“見えない酸”がピログルタミン酸というわけです。

なぜアセトアミノフェンでピログルタミン酸が増えるの?

ピログルタミン

まずはアセトアミノフェンの代謝をおさらいします。

大部分はグルクロン酸抱合・硫酸抱合で処理されますが、
一部はCYPによって反応性の高い NAPQI (N-acetyl-p-benzoquinone imine(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン))に変わります。

ひより

NAPQPIってなんなん…。

Yuki

アセトアミノフェンが肝臓で代謝されるときに、
CYP酵素等で変換されてできる有害な代謝物だよ。

このNAPQI、そのままだと毒性があるのですが、グルタチオンとくっついて無毒化されます。

実はこのグルタチオン消費、過量投与で肝障害が起きるときの出発点でもあります。

さて、ピログルタミン酸は、このグルタチオン代謝(γ-グルタミルサイクル)の途中にある物質です。
普段はグルタチオンが「もう十分だよ」と負のフィードバックをかけて、上流の合成を抑えてくれています。

ところがアセトアミノフェンでグルタチオンが消費されて足りなくなると、このブレーキが外れて合成系(γ-グルタミルシステイン合成)がフル稼働します。
でも肝心の材料が足りず、グルタチオンまでたどり着けない。結果、途中のピログルタミン酸だけがどんどん作られてしまう、というわけです。

グルタチオン消費・枯渇 → ブレーキ(負のフィードバック)が外れる
→ 合成系がフル稼働 → でもグルタチオンまで作れない
→ ピログルタミン酸が過剰に → HAGMA

HAGMA

この流れは、グルタチオンの材料(システインなど)が枯渇しやすい低栄養・敗血症・肝障害で起こりやすくなります。おまけにピログルタミン酸は腎臓から捨てられるので、腎障害があると「作られやすい+捨てにくい」がダブルパンチになり、いっそうたまりやすくなります。

「肝障害を起こす過量投与」とは別の話

ここは間違えやすいところです。

中毒性の肝障害は「大量服用 → グルタチオン枯渇 → NAPQI蓄積」ですが、

ピログルタミン酸アシドーシスはちょっと違います。

Stewartの100例レビュー(Clin Med 2024)によると、大半はふつうの治療用量を定期的に使っていた患者さんでした。
そして多くが、低栄養などのリスク因子を併せ持っていたのです。

つまり「適正用量だから絶対に起こらない」わけではないけれど、「健康な人が数日使う分を過度に怖がる必要もない」

——このさじ加減が大事なところです。

どんな患者さんに注意する?

今回の改訂で、素因のある患者として挙げられているのは次の4つ。

なかでも意識しておきたいのは、

食事がほとんど摂れていない高齢の患者さんに、アセトアミノフェンが連日定時で処方されているようなケースです。

症状は?いつ疑えばいい?

やっかいなのは、

症状:頻呼吸・深い呼吸、悪心・嘔吐、倦怠感、意識の変化)

がどれも非特異的で、これだけでは見分けがつかないこと。

なので順番としては、HAGMAを見たらまず乳酸アシドーシス・ケトアシドーシス・腎不全・中毒といった「よくある原因」から評価します。

それでもAG開大の説明がつかず、しかも アセトアミノフェン使用+上記のリスク因子 がそろっているとき。
そこで初めて「もしかしてピログルタミン酸?」と鑑別に加える、という流れです。

治療は?

  • まずはアセトアミノフェンの中止が基本
  • あとは状態に応じて、輸液、電解質・酸塩基平衡の補正、栄養状態の改善、感染症など基礎疾患の治療
  • N-アセチルシステイン(NAC):グルタチオンの回復を狙う意味で理にはかなっていますが、臨床エビデンスはまだ症例報告レベルにとどまります

薬剤師として押さえておきたいこと

今回の改訂は「アセトアミノフェンが危ない薬になった」という話ではありません。

そうではなく、特定の患者さんでは、通常量でもピログルタミン酸アシドーシスが起こりうる——この視点を1つ持っておくことが大切です。

原因不明のHAGMAを前にしたとき、「そういえばこの患者さん、アセトアミノフェンをずっと使ってるな」と気づけること。それだけでも、今回の添付文書改訂を知っておく意味は十分にあります。

参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Yukiのアバター Yuki 管理薬剤師

調剤薬局で15年、管理薬剤師として13年勤務。
現在は学校薬剤師として小学校・中学校にも関わりながら、薬剤師向けサイト「PharmaNote」を運営しています。

薬剤師としての現場経験と、テレビ・アニメ作編曲家としての表現の経験を活かし、やさしく親しみやすい情報発信を心がけています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次