ナウゼリンで知られるドンペリドンと、プリンペランで知られるメトクロプラミド。
どちらも悪心・嘔吐などに広く使われていますが、2026年8月25日、PMDAから使用上の注意の改訂指示が出されました。
今回の主な変更点は、次の2つです。
背景には、日本のNDB約1,936万人を対象とした大規模な疫学調査があります。
この記事では、改訂内容と薬剤師が確認したいポイントを整理します。
何が変わった?
改訂の対象となったのは、次の製剤です。
- ドンペリドン(ナウゼリン錠、OD錠、坐剤など)
- メトクロプラミド(プリンペラン錠、細粒、シロップなど)
- 塩酸メトクロプラミド(プリンペラン注射液など)
添付文書の「重大な副作用」には、以下が追加されました。
また、「重要な基本的注意」には、必要最小限の使用にとどめ、長期にわたり漫然と投与しないことが追記されています。
患者に対しては、動悸、めまい、失神などの不整脈を疑う症状が現れた場合、速やかに受診するよう指導します。患者の状態に応じて、心電図検査などを行うことも求められています。
改訂の根拠となったNDB調査
PMDAは、2012年4月から2023年3月までのNDBを用いて、ドンペリドンまたはメトクロプラミドと、致死性不整脈・心突然死との関連を調査しました。
解析対象は、いずれかの薬剤の処方歴がある成人19,361,211人です。
このうち、
- 致死性不整脈または心突然死:83,958人
- 致死性不整脈:33,808人
をケースとして解析しています。
薬剤を使用中、または使用終了から間もない「Current use」と非使用群を比較した結果は、次のとおりです。
| 薬剤 | 致死性不整脈+心突然死 | 致死性不整脈 |
|---|---|---|
| ドンペリドン | 2.48 | 2.37 |
| メトクロプラミド | 2.73 | 2.82 |
※Current useとNon-useを比較した調整オッズ比
両剤とも、使用中または使用終了直後にリスク上昇が認められました。
ただし、この結果は「服用した人の2.5倍が不整脈を起こす」という意味ではありません。
示されているのは非使用群に対する相対的なオッズであり、実際に何人に発生するかという絶対リスクではない点に注意が必要です。
ドンペリドンは30mg以下でも注意
ドンペリドンについては、1日用量を「30mg超」と「30mg以下」に分けた解析も行われました。
どちらの用量群でも、致死性不整脈・心突然死との関連が認められています。
致死性不整脈+心突然死の調整オッズ比は、
そのため、30mg以下であればリスクがないとはいえません。
一方、30mg以下のほうが危険という結果でもありません。
高用量群は症例数が少なく、今回の調査から明確な用量反応関係までは確認されていません。
なぜ不整脈が起こる?
ドンペリドンでは、心筋の再分極に関与するhERG(IKr)カリウムチャネルへの作用により、QT間隔が延長する可能性があります。
QT延長が強くなると、Torsade de Pointesや心室細動などの重篤な不整脈につながるおそれがあります。
海外でも以前から心室性不整脈や突然死との関連が問題となっており、欧州では最小有効量・最短期間での使用や、QT延長薬・CYP3A4阻害薬との併用への注意が示されています。
メトクロプラミドについても今回の調査でリスク上昇が認められましたが、両剤の不整脈をまったく同じ機序で説明することはできません。今回の改訂は、主に疫学調査の結果を踏まえたものです。

薬剤師が確認したいポイント
処方監査や服薬指導では、次の点を確認したいところです。
- 長期間、漫然と継続されていないか
- 現在も制吐薬や消化管運動改善薬が必要か
- 動悸、めまい、脈の乱れ、失神などがないか
- QT延長を起こす薬剤が併用されていないか
- 心疾患、不整脈、QT延長の既往がないか
- 徐脈、低K血症、低Mg血症のリスクがないか
- ドンペリドンではCYP3A4阻害薬が併用されていないか
特に注意したいのが、複数のQT延長薬が重なっている処方です。
前回も処方されていたという理由だけで継続せず、現在も必要な薬か、患者背景や併用薬に変化がないかを改めて確認する必要があります。
調査結果の解釈には注意
今回の調査は約1,936万人を対象とした大規模な解析ですが、観察研究であるため、薬剤と不整脈の因果関係を直接証明したものではありません。
PMDAは、主な限界として以下を挙げています。
- アウトカム定義のバリデーションが行われていない
- BMIや飲酒歴など、調整できていない因子がある
- 患者状態の変化を完全には補正できない
- 院外で発生した心突然死を完全には捕捉できない
したがって、「服用すると不整脈が2.48倍起こる」と断定するのではなく、使用群で致死性不整脈・心突然死との関連が認められたため、安全対策が強化されたと捉えるのが適切です。
まとめ
ドンペリドンとメトクロプラミドの添付文書に、重大な副作用として重篤な不整脈が追加されました。
今回の改訂では、必要最小限の使用にとどめ、長期にわたり漫然と投与しないことも明記されています。ドンペリドンについては、30mg以下でもリスクがないとはいえません。
処方監査では、不整脈を疑う症状、心疾患や電解質異常のリスク、QT延長薬などの併用を確認するとともに、現在も継続する必要があるかを見直すことが大切です。
参考文献
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).ドンペリドン及び塩酸メトクロプラミド/メトクロプラミドの「使用上の注意」の改訂について(2026年8月25日)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)を用いた調査結果の概要―ドンペリドン又はメトクロプラミドによる致死性不整脈イベント発現のリスク評価
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).ナウゼリン錠5/ナウゼリン錠10 医薬品情報
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).プリンペラン錠5 医薬品情報
- European Medicines Agency. Domperidone-containing medicines – referral
- Claassen S, Zünkler BJ. Comparison of the effects of metoclopramide and domperidone on HERG channels. Pharmacology. 2005;74(1):31-36. PubMed


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